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【映画レビュー】ミス・シェパードをお手本に を観てきた

12月10日から公開になったマギー・スミス主演の新作映画「 ミス・シェパードをお手本に 」(原題:The Lady in the Van)を観てきたので感想がてらレビューをかいてみます。
ホームレスの女性と作家の男の共生生活を描く、実在の作家であるアラン・ベネットの回想録を実写化したコメディー映画。

ミス・シェパードをお手本に とは

2015年制作のイギリス映画。

「ヒストリーボーイズ」「英国万歳!」などで知られるイギリス出身の実在の作家 アラン・ベネットの実話の体験を元に、ホームレスの女性 ミス・シェパードとの15年にわたる共生生活を経た関係を描く。ヒューマン・ドラマ、感動的な要素も散りばめつつ「クスッ」と笑ってしまうコメディータッチで仕上げた作品。

 

 

イギリスを代表する劇作家アラン・ベネットの経験をもとにした驚きの物語がついに日本公開!

風変わりな謎のレディ “ミス・シェパード”を演じるのは、米アカデミー賞(R)、英国アカデミー賞を数多く受賞し、最近ではドラマ「ダウントン・アビー」でも知られる名女優マギー・スミス。舞台版でも同役を演じ「マギー・スミス史上もっともマギーらしい当たり役」と称されました。また日本でも黒柳徹子が舞台で演じ、大ヒットを記録。劇作家ベネット役に英国ナショナル・シアターやロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなど舞台で活躍するアレックス・ジェニングス、監督は映画『英国万歳!』や舞台演出家として知られるニコラス・ハイトナーほか、英国演劇界を牽引するキャスト、スタッフが集結した。

“ロンドンの原宿”と呼ばれるカムデンにあるアラン・ベネットとミス・シェパードが実際に暮らした家で、撮影が行われたのも見どころの一つ。人間関係のしがらみや物欲にとらわれないミス・シェパードの自由な生き方は、きっと私たちの心も豊かにしてくれます。

公式サイト より

登場人物

ミス・シェパード

主人公。元修道女で、戦時中には救急車の運転をしていた。現在はバンに寝泊まりするホームレス生活をおくっている、「ああ言えばこう言う」タイプのなかなかに癖のある性格の持ち主。過去にはフランスへ留学しピアノも弾いていたそうだが、今は音楽を嫌っている。その理由は…。

演じるのは[actor][name]マギー・スミス[nname]([altname]Maggie Smith[aaltname])[sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0001749/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/12/lady-in-the-van-e1481361123727.jpg”][aactor]
1950年台から活躍する名女優さん。映画「天使にラブソングを」シリーズや「ハリー・ポッター」シリーズでのマクゴナガル先生役は有名ですね。

アラン・ベネット

イギリスに移り住んできた劇作家。
パッとしない自分の執筆、年老いた自分の母親、そして家の前に居着いてしまったミス・シェパードに悩まされる日々を送るのだが…。

演じるのは[actor][name]アレックス・ジェニングス[nname]([altname]Alex Jennings[aaltname])[sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0421105/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/12/jennings.jpg”][aactor]アレックス・ジェニングス
イギリスの俳優さん。ボク個人はあまり見たことがないんですが英国ミステリードラマなどに多く出演されているよう。イギリスの俳優さん故かアメリカドラマなどでは見た記憶がありません。。

ルーファス

ベネットのお向かいに住む家の主人。
ミス・シェパードを厄介者扱いしつつも、ご近所さんとして気にかける一面も。

演じるのは[actor][name]ロジャー・アラム[nname]([altname]Roger Allam[aaltname])[sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0019885/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/12/allam.jpg”][aactor]
こちらもイギリス出身の俳優さんですが映画「天使の分け前」「Vフォーヴェンデッタ」やドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」などの有名作にも出演。

ヴォーン・ウィリアムズ

ベネットのご近所さん、ミスシェパードに対して辛辣なご近所さん達のなかでも一際リベラルな対応を見せる女性。

演じるのは[actor][name]フランシス・デ・ラ・トゥーア[nname]([altname]Frances de la Tour[aaltname])[sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0209428/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/12/delatour.jpg”][aactor]
映画「ハリー・ポッター」シリーズではマギー・スミスと共演、「アリス・イン・ワンダーランド」や現在公開中の映画「マイベストフレンド」などにも出演。

アンダーウッド

ミス・シェパードにつきまとう謎の男性。

演じるのは[actor][name]ジム・ブロードベント[nname]([altname]Jim Broadbent[aaltname])[sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0000980/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/12/broadbent.png”][aactor]
「ハリー・ポッター」シリーズや「ターザンREBORN」「アベンジャーズ」等に出演。

あらすじ

劇作家のアラン・ベネットはイギリスのカムデンに越してくる。
ある日、教会の前で立ち止まったベネットは子汚い格好の老人 ミス・シェパードに声をかけられる。動かなくなってしまった、彼女が寝泊まりするバンを押してくれるように頼むシェパード、しぶしぶ応じるベネット。

ベネットが住む家のとおりにバンを停車し、車上生活を始めたシェパード。
通りの住人たちはホームレスの彼女を迷惑がりつつも、お人好しでリベラルな建前で彼女に気を使ってみせる。ある日、彼女が停車していた家の騒音(子供たちの楽器の練習)に耐えられなくなったシェパードはベネットのお向かいさん、ルーファス&ポーリーン夫妻の家の前に移動してくる。
夫妻は慌てて他に移るように説得するが、シェパードの図々しさには敵わず泣き寝入り。。。

はじめて会った日以来、なにかと懐かれてしまったベネットは不本意ながらも買い物を手伝ったり、トイレを貸したりと彼女の世話役のような存在になっていく。
世で持て囃されるような作品を書けず煮詰まっていたベネットは心の中の自分と対話しながら、執筆の参考に、とシェパードの観察を始める。

通りの先にある修道院でシスターをしていたらしいシェパード。
若いころにはフランスに留学し、ピアノも習っていたらしい。戦時中には救急車の運転をしていたという。彼女の経歴を聴き、教養もあるはずの彼女がなぜ車上生活を送るようになったのか不思議なベネット。
ピアノを習っていたはずなのに、音楽は嫌いだと話す彼女に尚更疑問を抱く。

ある夜、彼女のバンを訪ねる謎の男・アンダーウッドを目撃するベネット。
彼はシェパードのことを「マーガレット」と呼ぶ。たびたび現れては彼女からお金を巻き上げている様子の男。ベネットも不審に感じるのだが…。

シェパードはある日、バンを黄色に塗装。ムラのある塗装でいかにも不格好だが、自分でペンキをぬったシェパードは満足そう。
しかし行政の指導によってバンを道に路駐できなくなってしまう。みかねたベネットは自分の家の庭先にバンを停めさせてあげることに。とても衛生的とはいえない彼女の車に嫌悪感をしめすベネット。

年老いたベネットの母親も息子の家の庭先にホームレス女性が住むことを快く思わないが、母親があからさまにシェパードを見下す様をみて、これまた複雑な気持ちになってしまうベネット。

大戦後のイギリスでは、貧困層に対して気負いする風なリベラル層がいたらしく、なんだかんだでご近所はみなホームレスの彼女に “施し” をしてあげていた。
庭先に居着いて住所を得たことで、福祉を受けることが出来るようになったシェパードは不衛生なオンボロのバンを新調してもらうことに。
真新しいキレイなブルーのバンを手に入れた彼女だが、すぐにまた黄色く塗りつぶしてしまう。

ある夜には、バンが大きくゆれるほど、彼女がひたすらに神に赦しを乞うように祈りをささげるのを目撃したベネット。彼女が過去に抱えた何かに興味をもつのだが。。。

月日はたち、老いた母は施設に入り、それでいて老いたシェパードと共同生活を送っているという珍妙な境遇のベネット。
作家としては母とシェパードをモチーフに老人介護に纏わる独白劇を書き、そこそこにヒットを飛ばす。自分をモチーフにしたことをシェパードに皮肉られはするもののふたりは良い関係を続けているようにみえた。

しかし年老いたシェパードを不衛生な状況に置き続けることを見かねた介護福祉のスタッフは、ベネットに相談し彼女を施設へ連れていくことを薦める。
過去に精神病院にいれられそうになった、と語るシェパードは難色を示すが、ベネットが日帰りで入浴でもしてきたらと説得すると彼女はおとなしくそれに従うのだった。

別れ際、もしものときは、と唯一の親族の連絡先をベネットにたくすシェパード。。

連絡先に書かれた彼女の弟の住所を訪れたベネット。
彼女がかつて有名な師に師事し、音楽祭で演奏を披露するほどピアノがうまかったことを聴かされる。しかし修道院に入り、信仰心を試されるために大好きだったピアノや音楽を司祭に禁じられ、それ以来音楽から遠ざかってしまったのだと知る。

シェパードは施設でひさしぶりの入浴をすませる。
施設に置いてあったピアノが目に止まり、おそるおそる椅子に腰掛け鍵盤に触れるシェパード。震える手で何十年かぶりに音を奏でる。

自宅にもどってきたベネット、バンの扉をあけると既にシェパードは帰ってきていた。
ピアノを弾いて動揺したのか、落ち着きが無い。彼女に促され彼女の手をやさしくにぎるベネット。「お風呂に入ったから汚くないよ」と言う彼女のセリフがまたいじらしい。

明くる日、胸騒ぎを押さえるようにベネットが窓の外をながめる。
介護福祉のスタッフがやってきてバンの扉をあけると、彼女は静かに旅立っていた。ながく共に生活をしていながら、自分が第一発見者でなかったことが悔やまれる、と心中で語るベネット。

ご近所さんが集まり彼女の葬儀が開かれる。
葬儀には、あの謎の男・アンダーウッドも参列していた。彼はベネットにシェパードの過去を話して聴かせる。
シェパードはある日、バンを運転していた。交差路で停まっていたところ、バイクを運転した若者が一方的に突っ込んできて彼は死んでしまう。彼女には一切非はなかったのだが、動転した彼女は彼を置いたまま警察も呼ばずに逃げ出してしまう。
それ以来、彼女は逃走しているという。アンダーウッドは彼女を追い続けていた元警察官だったのだ。

彼女が生涯、ずっと赦しをこうていたのはこの事だったのか、大好きな音楽を遠ざけてまでも神の許しを得たかったのか、と合点がいくベネット。

棺を埋葬する様を見守るベネットの前に、死んだシェパード(の霊?)が現れる。
軽口をたたき、陽気に振る舞い、事故で亡くなった若者と死後に再会した、と語るシェパード。その顔には既に苦悩の表情はなく「これから彼と話したいことが山程ある」と笑顔で語りながら、天から指す光につつまれて昇天していく様がデフォルメチックに描かれる。

その後、ベネットは彼女を題材にした本を出版。
作家としても成功をおさめ、彼女のバンが停まっていた自宅に記念碑をたてるのだった。

感想と疑問点

率直な感想としては、事故の真相には拍子抜けしてしまう。別に逃げなくていいやん、て。
それを重く受け止めてしまったというのが、シェパードはそれだけマジメな誠実な人柄だったのだろう、という表れなんだろう、と思う。

でも、アンダーウッドがその後も彼女を執拗に追い続ける理由、彼女からお金を巻き上げている理由、彼女をあそこまで罵倒していた理由はいまいち理解不能だ。単純に警察の正義感としてなら捕まえればよかっただけの話だし、お金を巻き上げるのがよくわからない。

冒頭で逃走シーンが映っていたことから推測するに、当時捕まえられなかったアンダーウッドは、その後彼女の消息を掴んだけれど、真相がそもそも相手の一方的な事故なので彼女を罪に問うことはできなかった。
けれど、修道女である彼女は悩み塞ぎ、そこに漬け込んだアンダーウッドは度々お金を要求して、脅迫まがいのことをしてたんじゃなかろうか…?と。とんだ悪徳警官じゃねえか!(あくまでボクの推測です)

 

あとアラン・ベネットの家に夜、出入りしていた人物たち。
シェパードも深くは聴かなかったシーンがありましたが、単純に演劇関連の知り合いが出入りしていたわけではないでしょうね。。。

いい歳の男性がいつまでも独り身で暮らしている…っていうのが案に物語っていたわけですが。
実際のアラン・ベネットもイギリスの「著名なゲイ」トップ10に名を連ねている方ですし、(ボクは事前には知らなかったですが)そういうことでしょう。ラストシーンで彼の家に訪れた男性は同棲することを示唆していましたから、彼がベネットの恋人、ということでしょうか。

それまで心中の自分と会話するために独り言を繰り返していたベネットですが、彼の登場でもうひとりの自分は姿を消しました。
これも時間の経過とベネットの内的な成長を表していて、とても象徴的かつわかりやすい表現でした。

ちなみにラストシーンではアラン・ベネット本人も登場しています。

あとがき

[rating]

見終わってみると話そのものは特別珍しい内容でもないですし、ミスシェパードが生涯を通して贖罪を求めた事件そのものが勘違いだった、という点は拍子抜けに感じる部分もあります。

しかしながら、”アラン・ベネットの回想録” とうたわれていることもあって主人公的扱いのベネット、彼の心情が二人の人格を一人二役でカタチとして再現し、お互いに会話するという表現が、おもしろい、そしてわかりやすい。
そして、お話の組み方がなかなか手が込んでいて、先の展開をうまいこと読ませないようになっていて惹きつけられる。

ラストのくだりではミスシェパードの死をうけて厳かに感動タッチで終わっていくのかと思いきや、作中一番の軽いタッチでコメディ仕立てに仕上げていて、「さすがにその展開は予想してなかったわ」とニンマリ。

事故の発端となった男性と再会し、全容を知って尚、明るく振る舞う彼女に一瞬疑問をいだいたのだけれど、その陽気さを垣間見た時に「そういう赦しのカタチもあるのかもしれない」と個人的には妙に納得できちゃったんですよね、あのラストシーンは。
ぜんぜん泣くようなシーンじゃなかったのかもしれないけど、ちょっとウルッてキちゃったんですよボクは。苦笑

 

先日見た「マダム・フローレンス!夢見るふたり」然り、この作品でも感じたのは、実話を元にした作品は恐らく、完成されたドラマチックさを求めるのは無理があるのだろうな、というのがあって。大筋のストーリーに手を加えるのは、それはそれで問題もあろうし、そうなると演出や構成で如何に不完全な(いわばリアルな部分を)作品として補えるかがポイントかなー、と感じるのです。

その意味ではマダムフローレンスはあまり上手く行ってないように思えたし、本作は演出と構成が美味いこと味付けしていたな!と感じました。
IMDbや映画批評サイトなどのレビューを観てみるとトータルの評価はさほど高く無いようなのですが、個人的には前述した理由付けをふまえてとても良い映画だなあ、と感じました。

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