【映画レビュー】ミス・シェパードをお手本に を観てきた

ミス・シェパードをお手本に

あらすじ

劇作家のアラン・ベネットはイギリスのカムデンに越してくる。
ある日、教会の前で立ち止まったベネットは子汚い格好の老人 ミス・シェパードに声をかけられる。動かなくなってしまった、彼女が寝泊まりするバンを押してくれるように頼むシェパード、しぶしぶ応じるベネット。

ミス・シェパードをお手本に

ベネットが住む家のとおりにバンを停車し、車上生活を始めたシェパード。
通りの住人たちはホームレスの彼女を迷惑がりつつも、お人好しでリベラルな建前で彼女に気を使ってみせる。ある日、彼女が停車していた家の騒音(子供たちの楽器の練習)に耐えられなくなったシェパードはベネットのお向かいさん、ルーファス&ポーリーン夫妻の家の前に移動してくる。
夫妻は慌てて他に移るように説得するが、シェパードの図々しさには敵わず泣き寝入り。。。

ミス・シェパードをお手本に

はじめて会った日以来、なにかと懐かれてしまったベネットは不本意ながらも買い物を手伝ったり、トイレを貸したりと彼女の世話役のような存在になっていく。
世で持て囃されるような作品を書けず煮詰まっていたベネットは心の中の自分と対話しながら、執筆の参考に、とシェパードの観察を始める。

通りの先にある修道院でシスターをしていたらしいシェパード。
若いころにはフランスに留学し、ピアノも習っていたらしい。戦時中には救急車の運転をしていたという。彼女の経歴を聴き、教養もあるはずの彼女がなぜ車上生活を送るようになったのか不思議なベネット。
ピアノを習っていたはずなのに、音楽は嫌いだと話す彼女に尚更疑問を抱く。

ミス・シェパードをお手本に

ある夜、彼女のバンを訪ねる謎の男・アンダーウッドを目撃するベネット。
彼はシェパードのことを「マーガレット」と呼ぶ。たびたび現れては彼女からお金を巻き上げている様子の男。ベネットも不審に感じるのだが…。

シェパードはある日、バンを黄色に塗装。ムラのある塗装でいかにも不格好だが、自分でペンキをぬったシェパードは満足そう。
しかし行政の指導によってバンを道に路駐できなくなってしまう。みかねたベネットは自分の家の庭先にバンを停めさせてあげることに。とても衛生的とはいえない彼女の車に嫌悪感をしめすベネット。

年老いたベネットの母親も息子の家の庭先にホームレス女性が住むことを快く思わないが、母親があからさまにシェパードを見下す様をみて、これまた複雑な気持ちになってしまうベネット。

ミス・シェパードをお手本に

大戦後のイギリスでは、貧困層に対して気負いする風なリベラル層がいたらしく、なんだかんだでご近所はみなホームレスの彼女に “施し” をしてあげていた。
庭先に居着いて住所を得たことで、福祉を受けることが出来るようになったシェパードは不衛生なオンボロのバンを新調してもらうことに。
真新しいキレイなブルーのバンを手に入れた彼女だが、すぐにまた黄色く塗りつぶしてしまう。

ある夜には、バンが大きくゆれるほど、彼女がひたすらに神に赦しを乞うように祈りをささげるのを目撃したベネット。彼女が過去に抱えた何かに興味をもつのだが。。。

ミス・シェパードをお手本に ミス・シェパードをお手本に

月日はたち、老いた母は施設に入り、それでいて老いたシェパードと共同生活を送っているという珍妙な境遇のベネット。
作家としては母とシェパードをモチーフに老人介護に纏わる独白劇を書き、そこそこにヒットを飛ばす。自分をモチーフにしたことをシェパードに皮肉られはするもののふたりは良い関係を続けているようにみえた。

しかし年老いたシェパードを不衛生な状況に置き続けることを見かねた介護福祉のスタッフは、ベネットに相談し彼女を施設へ連れていくことを薦める。
過去に精神病院にいれられそうになった、と語るシェパードは難色を示すが、ベネットが日帰りで入浴でもしてきたらと説得すると彼女はおとなしくそれに従うのだった。

別れ際、もしものときは、と唯一の親族の連絡先をベネットにたくすシェパード。。

ミス・シェパードをお手本に

連絡先に書かれた彼女の弟の住所を訪れたベネット。
彼女がかつて有名な師に師事し、音楽祭で演奏を披露するほどピアノがうまかったことを聴かされる。しかし修道院に入り、信仰心を試されるために大好きだったピアノや音楽を司祭に禁じられ、それ以来音楽から遠ざかってしまったのだと知る。

シェパードは施設でひさしぶりの入浴をすませる。
施設に置いてあったピアノが目に止まり、おそるおそる椅子に腰掛け鍵盤に触れるシェパード。震える手で何十年かぶりに音を奏でる。

自宅にもどってきたベネット、バンの扉をあけると既にシェパードは帰ってきていた。
ピアノを弾いて動揺したのか、落ち着きが無い。彼女に促され彼女の手をやさしくにぎるベネット。「お風呂に入ったから汚くないよ」と言う彼女のセリフがまたいじらしい。

明くる日、胸騒ぎを押さえるようにベネットが窓の外をながめる。
介護福祉のスタッフがやってきてバンの扉をあけると、彼女は静かに旅立っていた。ながく共に生活をしていながら、自分が第一発見者でなかったことが悔やまれる、と心中で語るベネット。

ご近所さんが集まり彼女の葬儀が開かれる。
葬儀には、あの謎の男・アンダーウッドも参列していた。彼はベネットにシェパードの過去を話して聴かせる。
シェパードはある日、バンを運転していた。交差路で停まっていたところ、バイクを運転した若者が一方的に突っ込んできて彼は死んでしまう。彼女には一切非はなかったのだが、動転した彼女は彼を置いたまま警察も呼ばずに逃げ出してしまう。
それ以来、彼女は逃走しているという。アンダーウッドは彼女を追い続けていた元警察官だったのだ。

彼女が生涯、ずっと赦しをこうていたのはこの事だったのか、大好きな音楽を遠ざけてまでも神の許しを得たかったのか、と合点がいくベネット。

棺を埋葬する様を見守るベネットの前に、死んだシェパード(の霊?)が現れる。
軽口をたたき、陽気に振る舞い、事故で亡くなった若者と死後に再会した、と語るシェパード。その顔には既に苦悩の表情はなく「これから彼と話したいことが山程ある」と笑顔で語りながら、天から指す光につつまれて昇天していく様がデフォルメチックに描かれる。

ミス・シェパードをお手本に

その後、ベネットは彼女を題材にした本を出版。
作家としても成功をおさめ、彼女のバンが停まっていた自宅に記念碑をたてるのだった。