9月17日から公開されている 映画 怒り を観てきたので感想をレビューしたいと思います。
キャスト陣は渡辺謙、妻夫木聡、広瀬すずほか錚々たる面々。同名の小説を原作に、貧困、沖縄問題、LGBT、人間関係など日本社会の孕む様々な問題を提起した作品。
僭越ながら、原作は読んだことがなく映画を初見として楽しませてもらいましたが、予想以上にすさまじい内容でした…。
映画 怒り とは
ある夫婦が惨殺された現場に「怒」の血文字を残して未解決となった事件から1年後。犯人は「山神一也」という人物だと判明するものの、整形手術をして逃亡を続けています。疑わしいとされるのは3人の男。千葉県・房総の田代哲也、沖縄の離島にいる田中信吾、東京都内の大西直人。
それぞれの地でそれぞれの男に出会う人々の葛藤を描く群青劇。
人間関係の難しさ、貧困、沖縄基地問題、LGBTなど原題の日本社会が孕む様々な要素、問題などを内包した、内容濃い作品です。
吉田修一の原作を映画化した「悪人」で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作の小説を映画化した群像ミステリードラマ。
名実ともに日本を代表する名優・渡辺謙を主演に、森山未來、松山ケンイチ、広瀬すず、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡と日本映画界トップクラスの俳優たちが共演。
犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れたことから巻き起こるドラマを描いた。東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。
それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で田中という男と遭遇するが……。
映画.com より
登場人物
あらすじを追う前に登場人物をチェックしてみます。
東京
東京を舞台に「大西直人」という人物周辺が描かれる。
大西直人
素性不明、地方から上京してきたばかりだというゲイの男性。新宿二丁目で藤田優馬(後述)と知り合い同棲生活を始めるが…。
演じるのは[actor][name]綾野剛[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm1687017/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/onishi.png”][aactor]。
藤田優馬
奔放な生活をおくるゲイの男性。日々何かしら予定を埋めて空虚な日々を気を紛らわす。
ある日、大西と出会い同棲生活を始める。
演じるのは[actor][name]妻夫木聡[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm1070494/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/yuma.png”][aactor]。
同役を演じるに辺り、大西役の綾野剛と2週間ほど同棲生活をしたんだとか。
藤田貴子
優馬の母親、病気でホスピスに入院している。
演じるのは[actor][name]原日出子[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0361665/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/takako.png”][aactor]。
千葉
千葉の漁村を舞台に「田代哲也」という人物周辺が描かれる。
田代哲也
素性不明の男性、ある日千葉の漁村に現れ洋平(後述)の下で働き始める。
演じるのは[actor][name]松山ケンイチ[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm1947564/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/tashiro.png”][aactor]。
槙 洋平
漁港で働く男。東京で風俗堕ちした娘・愛子を連れて帰ってくる。愛子と田代が距離を縮めていくのを心配そうに見守るのだが…。
演じるのは[actor][name]渡辺謙[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0913822/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/youhei.png”][aactor]。
槙 愛子
洋平のひとり娘。なにごとにも押しに弱く、東京で風俗嬢として働いた挙句ボロボロになっていたところを洋平が見つけ里帰りする。
洋平のもとで働いていた田代と恋に落ちるのだが…。
演じるのは[actor][name]宮崎あおい[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0594497/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/aiko.png”][aactor]。
沖縄
沖縄を舞台に「田中慎吾」周辺の人物が描かれる。
田中信吾
沖縄の離島で泉(後述)が出会った男。人当たりもよくなんでも器用にこなす彼は日雇いの仕事をしながら放浪生活しているらしい。
演じるのは[actor][name]森山未來[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm1719673/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/tanaka.png”][aactor]。
小宮山泉
男関係にだらしない母親につれられ沖縄に移住してきた少女。
辰哉とともに訪れた離島で田中と出会い交流を深める。ある日、那覇にでかけた泉はとある事件に巻き込まれてしまうのだが…。
演じるのは[actor][name]広瀬すず[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm5620173/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/komiyama.png”][aactor]。
知念辰哉
泉と同じ島に暮らす青年。実家の民宿を手伝いながら、沖縄地域デモに参加する父親を恥じている面も。。
泉に淡い想いを寄せている。
演じているのは[actor][name]佐久本宝[nname](さくもとたから)[sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm8791907/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/chinen.png”][aactor]。
沖縄の地方劇団に所属する俳優さん。ほぼ無名の俳優さんですが、本作出演にあたり1/1200の倍率オーディションを勝ち抜いた実力者だそうです。
警察
東京・八王子で起きた夫婦殺害事件を中心に、その事件を捜査する警察が描かれる。
南條邦久
八王子で起きた夫婦殺人事件を捜査する刑事。操作線状に浮かんだ「大西直人」「田代哲也」「田中信吾」の3人の動向を追う。
演じるのは電気グルーヴでお馴染みの[actor][name]ピエール瀧[nname][sameus urls=”http://www.imdb.com/name/nm0847651/”][image urls=”https://motetai.club/wdps/wp-content/uploads/2016/11/nanjo.png”][aactor]。
あらすじ
とある夫婦が八王子の自宅で殺害される。夫婦の遺体は浴室に並べられ、自宅の中には犯人のものと思われる血で「怒」の文字が残されていた。
警察は容疑者「山神一也」を探すが、山神は整形手術で顔を変え逃亡する。
東京
日々なにかと予定を入れては空虚な毎日を埋めて過ごす藤田優馬は、ある日 大西直人と出会う。
ゲイで奔放な性生活をおくる優馬は直人と肉体関係をもつが、不思議と次第に彼に惹かれていく。地方から出てきたばかりだという直人、行き場のない彼を自分の家に招き優馬は彼との同棲生活を始める。
病弱な母を持つ優馬、彼女との面会を望む直人を最初はうっとおしがるが、徐々に心を開いた優馬は直人と母を会わせる。母にも気に入られた直人は仕事で忙しい優馬の代わりに彼女を度々見舞う。
ある日、母の病状は悪化し急逝。直人の見舞いもあって優馬は彼女の最後を看取ることができた。
彼と彼との生活が優馬にとってもかけがえの無いものになり始めた頃、優馬は直人が謎の女性と密会しているところを目撃する。
そのことを聴いても誤魔化す直人に猜疑心がわく優馬。 同じ頃優馬の知人宅に立て続けに空き巣が入ったり、と直人への疑念が強くなってきたところで、優馬は八王子の殺人事件の報道を目にする。
報道された山神の顔はどこか直人に似ていたのだ…。
千葉
漁村で働く槙 洋平は、東京で働くひとり娘・愛子を迎えに行く。
押しの弱い愛子は他人に利用された挙句、風俗でボロボロになって働いていた。知人の協力をかりて愛子を探したした洋平は彼女を連れて千葉の家に連れて帰る。
愛子がいない間に洋平の元で働き始めた青年・田代哲也。
とつぜん漁村に現れて働き始めた彼は身元不明、無口で素性が知れないが勤勉に働いているようだった。愛子と哲也は徐々に距離を近めるが、洋平はどこか心配そう。あぶなっかしい自分の娘は「幸せにはなれないのでは…」とどこかで考えてしまう洋平。心配をよそに、愛子と哲也は近所で同棲を始める。
彼の素性が気になる洋平、愛子は田代から聞かされた話を洋平に話す。
田代は、自殺した両親の残した多額の借金を背負ってしまい、逃げながら各地を転々としていたのだった。その話に一時はなっとくした洋平だったが、八王子の殺人事件の報道を目にしてその思いは一変する。報道された山神の顔はどこか田代に似ている…洋平に旋律がはしる。。。
沖縄
母に連れられ沖縄の離島に引っ越してきた小宮山泉は地元の青年・知念辰哉とともにとある無人島を訪れる。
泉は観光のつもりで訪れたその島で野宿する男・田中信吾と出会う。田中はたまに日雇いの仕事をしながら放浪生活をしているようだ。
最初は不審そうにしていた泉だが徐々に田中と打ち解ける。
ある日、泉と辰哉は那覇(沖縄本島)へデートにでかける。辰哉は自分の父親が基地建設反対のデモ活動に参加することをどこか恥じ「こんなことで何かが変わるのか?」と自問しているのだった。
那覇でふたりは日雇い仕事に来ていた田中とばったり会う。お酒を酌み交わし談笑を楽しんだ一行は別れるが、その後事件が起きる。
酔っ払ってふらふらと歩き去ってしまった辰哉を追って、ひとり暗い路地に入ってしまった泉はふたりの外国人男性に襲われレイプされてしまう。辰哉はその現場に行き当たるが、恐怖のあまり物陰に隠れ助けることもできなかった。。。
事が終わり、泉に駆け寄る辰哉は警察を呼ぼうとするも泉は「誰にも言わないで」と懇願する。
島に帰り、ショックから閉じこもってしまう泉。だれにもそのことを話せず鬱々とする辰哉。
辰哉の実家の民宿で、バイトを始めた田中に辰哉は相談をするのだが…ある夜、田中は民宿で大暴れした挙句、荷物を持ってどこかへ走り去ってしまう。
山神の整形写真が報道されたことで、3人の男たちの環境に変化が訪れる。
直人は優馬に問いつめられた後、優馬の家に寄り付かなくなる。
彼の気分を害してしまったのかと後悔し始めた優馬の元に警察から電話がかかってくる。警察が直人の名前を出したことで優馬は直感的に報道されていた男・山神と直人を結びつけてしまう。「大西直人」なんて知らない、と電話を切る優馬。
直人が殺人犯だったのだと思い込んだ優馬は、彼の私物を処分し彼を忘れ去ろうとするが、直人のことが頭から離れない。
ある日、彼が密会していた女性を見かけた優馬。彼女と直人との関係を疑う優馬だったが、直人の行方を知りたい一心で彼女に話しかける。
彼女から出てきた言葉は意外なものだった。直人と彼女は施設で共に育ったいわば姉弟のような関係だった。優馬と知り合った直人は彼との幸せな日々を彼女に話して聞かせていた。さらに直人は心臓病をわずらっていたこと、数日前に公園のしげみで倒れているのが見つかり帰らぬ人となっていたことを話す。(警察からの電話は「殺人容疑」ではなく「彼の死亡」を知らせるものだったのだ…)
真実を知り、直人を信じられなかったこと、彼がもう戻ってこないだということに涙する優馬だった。。。
報道を見た洋平は、田代が殺人犯かと疑う。
愛子は彼と話し、素性を知り、山神ではない、と洋平に告げる。洋平はその言葉に安堵するのだが、愛子自身は田代を完全に信用することができなかった…。
愛子は「山神に似た男がいる」と警察に通報し、田代は姿をくらます。
警察が訪れ指紋を採取、調査の結果、田代の指紋と山神の指紋は一致しなかった。
事実が明らかになり、田代が犯人ではなかった安堵よりも、彼を信じることができなかった事に泣き叫ぶ愛子。
姿を消した田代は最後に愛子に電話をかけてくる、愛子と洋平は全てを知ったうえで「戻ってこい」と彼を受け入れるのだった。
辰哉の実家を飛び出した田中はふたたび離島で暮らし始める。
辰哉が島を訪れると、田中は自身の顔にある3つのホクロをナイフでそぎ取ろうとしていた(公開された山神の写真に同じホクロがあったため)。
彼が根城にしていた廃屋の壁には意思で削って描かれた「怒」の文字が残されていた。
辰哉に一部始終をみられていた田中は、那覇で起きた泉のレイプ事件を「実は自分も隠れて観ていた」と話しだす。怯えていた辰哉とは対照的に、そのさまを楽しんで観ていた様に話す田中。怒りがこみ上げた辰哉はハサミを奪い田中の腹を刺す。
田中は死亡し、辰哉は逮捕される。
事件後、田中が山神であったことが明らかになる。辰哉は「信じていたから許せなかった」と供述。泉はひとり離島を訪れ、廃屋の壁に刻まれた文字を見つける。
「泉が米兵に乱暴されていた。ウケる」と田中が壁に刻んだ文字、辰哉がそれを必死に意思で削り取ろうとした痕が残されており、それを見た泉はやるせなさにおそわれる。泉はどこにぶつけていいかわからない想いを海に向かって叫ぶしかなかった。。。
「怒」の字が意味していたものは
見終わった感想としてはとにかく「すさまじかった」としか表現できない。
色んな感情が押し寄せるシーンの連続。劇場で観ていて142分という少し長めの尺もまったく気にならない、中だるみなく最初から最後まで惹きつけられてしまった。
個人的にイチバン理解しづらかったのが森山未來演じる、田中の心理。
知人の証言から「人を見下すプライドの高い人間性」が伺えたわけだけど、それ故に犯行に及び、泉を見殺しにし、それを面白おかしく嘲笑したのか?何故?単純に他人の不幸を面白がれるタイプだったのだろうか。そういうタイプの人間が現代にはたくさんいるだろうけど、そのことへの啓発?
彼が感じていた「怒」とはいったい何をさしていたのだろう?
泉が犯されている様を見て笑っていたと語る田中だが、その実はどうなのだろう。
もしかすると辰哉と同じように助けたくともそうできない、もどかしさ、相手への怒り、自分への嫌悪などが渦巻いていたのではないか?
田中をただ単純に人の不幸を笑うだけの「100%悪」という存在で締めくくるんは些か疑問が残る。
彼の中にも葛藤があり苦悩の末、結果的に良い方へ傾くことが出来なかった、と考えると非情に納得できるし、むしろ共感すら覚えるのだ。誰もが、ムカつく相手に「あんな奴死んじまえ!」と思う自分と、より良い社会・世界出会って欲しいと願う自分とが共存しているはずで、田中もまたそうであったのだと思うわけです。
殺人を犯した際も、「女性が生き返ると本気で思い風呂場に連れて行った」というのは衝動から起こした事への後悔の現れにも思える。
作品後半では、「感動」とかいうシンプルに表現できるようなものではなく、なんといっていいかわからない類の感情が激しくゆさぶられるシーンの押収だった。
優馬が直人の真実を知り涙をながすシーンはや、宮崎あおいの泣きの演技も無条件に涙腺をやられてしまった。泉がレイプされるシーンもかなりショッキングで陰惨で、見ながら思わず手にチカラが入ってしまったし。
お話のラストで事件が解決すると、希望とは言えないまでもわずかながら暗雲が取り払われるのだが、それぞれの問題にハッキリとした答えが出ていないのも象徴的。
現実の世界ではけっして「ハッピーエンドでめでたし」でも「バッドエンドでハイおしまい」でもない。問題を抱えながらその後も人生が続いていくわけだから。
人間関係の難しさ、貧困、沖縄基地問題、LGBTなど原題の日本社会が孕む様々な要素がこれだけ盛り込まれていても、要素過多で散漫になってしまうことなくひとつのお話としてまとめあげられているのは本当に圧巻。
それぞれの要素をテーマとしてひとつひとつの作品として成り立ちそうですらありますから。
その問題すらも、多面的であり、一方からの見方だけではそれが決して本質ではないことも表されていたように思います。
個人的にはその部分はヒジョーにエッセンスだな、と感じました。
あとがき
[rating]
ただただすさまじい作品でした。
単純に「良い作品」と表して良いのかわからない。見終えた時にけっして気持ちのいい作品ではないから。「田中が犯人だった」というストーリーとしての答えは出しつつも、それぞれの問題、想い、憤り、には結果として答えは出ていない。出せない、からだろう。
自分で書いておいてなんですが、
あらすじにおこすために、それぞれの想いを主観的に記してはいますが、きっとそれだけではない複雑な想いがそれぞれに内包されていたはずで、映画を見ながらだと感情移入出来た部分も文字に起こすのがとても難しい。苦笑
悲しみ、驚き、憤り、不甲斐なさ、的確に表すことすらままならない、さまざまな感情が「怒り」として表現されていたのかな…というのが個人的な解釈です。
普段は洋画ばかり観てるボクですが、邦画もこんなに鬼気迫る作品があるのか…!と感じました。くりかえしになりますが、けっして気持ちの良い作品ではありません、ただ観ておいて損はない。そんな作品でした。
https://www.youtube.com/watch?v=HhH9MUwv7AY
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