あらすじ
とある夫婦が八王子の自宅で殺害される。夫婦の遺体は浴室に並べられ、自宅の中には犯人のものと思われる血で「怒」の文字が残されていた。
警察は容疑者「山神一也」を探すが、山神は整形手術で顔を変え逃亡する。
東京
日々なにかと予定を入れては空虚な毎日を埋めて過ごす藤田優馬は、ある日 大西直人と出会う。
ゲイで奔放な性生活をおくる優馬は直人と肉体関係をもつが、不思議と次第に彼に惹かれていく。地方から出てきたばかりだという直人、行き場のない彼を自分の家に招き優馬は彼との同棲生活を始める。
病弱な母を持つ優馬、彼女との面会を望む直人を最初はうっとおしがるが、徐々に心を開いた優馬は直人と母を会わせる。母にも気に入られた直人は仕事で忙しい優馬の代わりに彼女を度々見舞う。
ある日、母の病状は悪化し急逝。直人の見舞いもあって優馬は彼女の最後を看取ることができた。
彼と彼との生活が優馬にとってもかけがえの無いものになり始めた頃、優馬は直人が謎の女性と密会しているところを目撃する。
そのことを聴いても誤魔化す直人に猜疑心がわく優馬。 同じ頃優馬の知人宅に立て続けに空き巣が入ったり、と直人への疑念が強くなってきたところで、優馬は八王子の殺人事件の報道を目にする。
報道された山神の顔はどこか直人に似ていたのだ…。
千葉
漁村で働く槙 洋平は、東京で働くひとり娘・愛子を迎えに行く。
押しの弱い愛子は他人に利用された挙句、風俗でボロボロになって働いていた。知人の協力をかりて愛子を探したした洋平は彼女を連れて千葉の家に連れて帰る。
愛子がいない間に洋平の元で働き始めた青年・田代哲也。
とつぜん漁村に現れて働き始めた彼は身元不明、無口で素性が知れないが勤勉に働いているようだった。愛子と哲也は徐々に距離を近めるが、洋平はどこか心配そう。あぶなっかしい自分の娘は「幸せにはなれないのでは…」とどこかで考えてしまう洋平。心配をよそに、愛子と哲也は近所で同棲を始める。
彼の素性が気になる洋平、愛子は田代から聞かされた話を洋平に話す。
田代は、自殺した両親の残した多額の借金を背負ってしまい、逃げながら各地を転々としていたのだった。その話に一時はなっとくした洋平だったが、八王子の殺人事件の報道を目にしてその思いは一変する。報道された山神の顔はどこか田代に似ている…洋平に旋律がはしる。。。
沖縄
母に連れられ沖縄の離島に引っ越してきた小宮山泉は地元の青年・知念辰哉とともにとある無人島を訪れる。
泉は観光のつもりで訪れたその島で野宿する男・田中信吾と出会う。田中はたまに日雇いの仕事をしながら放浪生活をしているようだ。
最初は不審そうにしていた泉だが徐々に田中と打ち解ける。
ある日、泉と辰哉は那覇(沖縄本島)へデートにでかける。辰哉は自分の父親が基地建設反対のデモ活動に参加することをどこか恥じ「こんなことで何かが変わるのか?」と自問しているのだった。
那覇でふたりは日雇い仕事に来ていた田中とばったり会う。お酒を酌み交わし談笑を楽しんだ一行は別れるが、その後事件が起きる。
酔っ払ってふらふらと歩き去ってしまった辰哉を追って、ひとり暗い路地に入ってしまった泉はふたりの外国人男性に襲われレイプされてしまう。辰哉はその現場に行き当たるが、恐怖のあまり物陰に隠れ助けることもできなかった。。。
事が終わり、泉に駆け寄る辰哉は警察を呼ぼうとするも泉は「誰にも言わないで」と懇願する。
島に帰り、ショックから閉じこもってしまう泉。だれにもそのことを話せず鬱々とする辰哉。
辰哉の実家の民宿で、バイトを始めた田中に辰哉は相談をするのだが…ある夜、田中は民宿で大暴れした挙句、荷物を持ってどこかへ走り去ってしまう。
山神の整形写真が報道されたことで、3人の男たちの環境に変化が訪れる。
直人は優馬に問いつめられた後、優馬の家に寄り付かなくなる。
彼の気分を害してしまったのかと後悔し始めた優馬の元に警察から電話がかかってくる。警察が直人の名前を出したことで優馬は直感的に報道されていた男・山神と直人を結びつけてしまう。「大西直人」なんて知らない、と電話を切る優馬。
直人が殺人犯だったのだと思い込んだ優馬は、彼の私物を処分し彼を忘れ去ろうとするが、直人のことが頭から離れない。
ある日、彼が密会していた女性を見かけた優馬。彼女と直人との関係を疑う優馬だったが、直人の行方を知りたい一心で彼女に話しかける。
彼女から出てきた言葉は意外なものだった。直人と彼女は施設で共に育ったいわば姉弟のような関係だった。優馬と知り合った直人は彼との幸せな日々を彼女に話して聞かせていた。さらに直人は心臓病をわずらっていたこと、数日前に公園のしげみで倒れているのが見つかり帰らぬ人となっていたことを話す。(警察からの電話は「殺人容疑」ではなく「彼の死亡」を知らせるものだったのだ…)
真実を知り、直人を信じられなかったこと、彼がもう戻ってこないだということに涙する優馬だった。。。
報道を見た洋平は、田代が殺人犯かと疑う。
愛子は彼と話し、素性を知り、山神ではない、と洋平に告げる。洋平はその言葉に安堵するのだが、愛子自身は田代を完全に信用することができなかった…。
愛子は「山神に似た男がいる」と警察に通報し、田代は姿をくらます。
警察が訪れ指紋を採取、調査の結果、田代の指紋と山神の指紋は一致しなかった。
事実が明らかになり、田代が犯人ではなかった安堵よりも、彼を信じることができなかった事に泣き叫ぶ愛子。
姿を消した田代は最後に愛子に電話をかけてくる、愛子と洋平は全てを知ったうえで「戻ってこい」と彼を受け入れるのだった。
辰哉の実家を飛び出した田中はふたたび離島で暮らし始める。
辰哉が島を訪れると、田中は自身の顔にある3つのホクロをナイフでそぎ取ろうとしていた(公開された山神の写真に同じホクロがあったため)。
彼が根城にしていた廃屋の壁には意思で削って描かれた「怒」の文字が残されていた。
辰哉に一部始終をみられていた田中は、那覇で起きた泉のレイプ事件を「実は自分も隠れて観ていた」と話しだす。怯えていた辰哉とは対照的に、そのさまを楽しんで観ていた様に話す田中。怒りがこみ上げた辰哉はハサミを奪い田中の腹を刺す。
田中は死亡し、辰哉は逮捕される。
事件後、田中が山神であったことが明らかになる。辰哉は「信じていたから許せなかった」と供述。泉はひとり離島を訪れ、廃屋の壁に刻まれた文字を見つける。
「泉が米兵に乱暴されていた。ウケる」と田中が壁に刻んだ文字、辰哉がそれを必死に意思で削り取ろうとした痕が残されており、それを見た泉はやるせなさにおそわれる。泉はどこにぶつけていいかわからない想いを海に向かって叫ぶしかなかった。。。